その後、先生は廊下などで私を見かけると話しかけてくれるようになった。





先生に好印象を持たれた確実な手応えがあった。






この人には積極的なアプローチは、逆効果なのがわかっていた。






だから、私からは挨拶程度にしていた。






そして、チャンスをいつも伺っていたが、フレンドリーに見えて先生には隙がなかった。






定期的に私と先生の噂も流した。






『先生が綾子ちゃんに話しかけてる時は、本当に嬉しそうだ』


『学校にばれないように、学校ではあまり話してないけど、この間の土曜に二人でいるところを見た子がいる』


『綾子ちゃんがしてるペンダントは先生からのプレゼントらしい』







など、周りに私と先生が特別な関係だと思わせておく事が大事だったし、
そう思われている事で、少しの優越感もあった。







そんな事をしている間に、1年の半分が過ぎてしまった。






どんどん焦ってきているが、突破口が何もなかった。






先生は、他の生徒と同じように私に接したし、それ以上になれるような素振りは全くなかった。






その内、自分が今まで持っていた自信が失われてきている事に気付いた。






いつも先生の事を見ている自分がいる。






最初はチャンスを伺うために先生を見ていたのに、今では、ただ先生を見ていたいだけになっている。






先生の周りでキャーキャー言っている子達と同じ位置にいる事に気付いてしまった。






私はいつだってなりたければ誰かの特別な存在になれてきたのに...






先生の事が好き過ぎて、下手な事が出来なくなっていた。






現に、先生に告白した子は冷たく振られ、その日から、必要な事以外は話してくれなくなっていたのだ。





先生に本気で恋愛している事がばれてしまうと、先生から突き放されてしまう事は、何人かの前例を見てきたのでわかったいた。





臆病になってしまってからは、もどかしい気持ちのまま、先生と偶然を装っては話しをするぐらいが、精一杯のできる事だった。






いろんな嘘も考えた、先生の家もつきとめようと探した。






家の近所まではわかったが、家を探し当てる事はできなかったので、近くにあるコンビニに時々行っては、先生に偶然会える事を期待したりした。





でも、先生の家は私の家からけっこう遠かったので、ちょくちょく行く事はできなく会う事はなかった。






どんな嘘も、突破口になるだろう嘘は大きすぎてリスクが大きかった。





嘘をついた事が先生にばれたら、嫌われてしまう。





それだけは避けたかった。





そして1年も終わりに近づいて行った。





3年生の卒業式も終わって、何日かしたら春休みに入る。





2年生になった時、先生が違う学年を受け持つようにでもなったら、校舎も違うので、顔を合わせる機会はほとんどなくなるだろう。





そう思うと、どうしても何かしないわけにはいかなかった。





焦っていた。





私には珍しく、衝動的に先生の帰りをまた同じ場所で待っていた。






幸い先生は一人で駐車場の方に向かって歩いてきた。






その手には、可愛らしい便箋の手紙を持っていて、困った顔で読みながら歩いていた。






それは誰かからのラブレターだと一目でわかった。






「先生。それってラブレターですか?」






と言う私の言葉に驚いたようにこちらを見た。






「おお。筧か。びっくりした」





先生は私の質問に答える気はないらしい。





私は、それがラブレターである前提で話し始めた。





「先生、モテるからそういうのは、ただ迷惑なんですね。今、すごい表情でしたよ」





と言うと。






「すごい表情だったか...気をつけないとな」






と笑顔でこちらを見た。







私は、先生の笑顔が大好きなのだ。







今、そんな顔をしないで欲しかった。








「もし、私も先生の事が好きだって言ったら、先生は、さっきみたいに困りますか?」








と聞いた。







先生は、一瞬目を大きく開けたが、すぐに今まで見た事がないような冷たい表情になり








「もちろんだ」








と、低い声で答えた。








背筋がゾクッとした。








これ以上、言うなと暗に伝えてきていた。







私は俯くと、気持ちを奮いたたせ、笑顔で顔を上げた。






「そうですよね。モテる人は大変ですね」





と言ってすぐに、





「あっ!こんな時間だ。もう帰らないと。先生、さようなら」






と言い、立ち去った。







先生の表情は、最後まで変わらなかった。





私に




「気をつけて帰りなさい」





と言っていたが、その表情がまだ変わっていない事は見なくてもわかった。