それからは先生に話しかけるチャンスを伺った。
先生はとにかく女子生徒から人気で、いつでも取り巻きがいた。
取り巻きと一緒にいては、彼女達と同じになってしまう。
一人になる時を見つける為に、先生の行動を観察した。
先生は陸上部の顧問をしていたので、帰りは遅かった。
さすがに先生の帰りまで待っている子はいないだろう。
話すとしたらこの時しかなかった。
そしてある日、先生が部活を終え、職員室から出てくるのを待った。
先生は駐車場の方へと歩いて行くので、その途中でタイミングよく足を引きずって歩き出し、先生に声をかけた。
「あっ!先生。今、おかえりなんですか?」
「ああ。えっと..。この間の....?」
「はい。筧綾子っていいます。1年です。この間は保健室まで運んでいただいてありがとうございました。すぐにでもお礼が言いたかったんですけど、遅くなってしまってごめんなさい」
「いや。お礼なんていいよ。あの後大丈夫だったか?」
「はい。少し貧血気味で、時々ああなるんです。でも休めば大丈夫なので...ご心配おかけしました。」
と言って、ニコッと笑顔を向けた。
先生も笑顔で
「ならよかった。でも、こんな遅い時間まで学校で何してるんだ。早く帰りなさい」
と言った。
「はい。さようなら」
と言って、足をひきずりながら歩き出す。
すると先生が
「おい!足どうしたんだ?」
と声をかけてくれた。
『かかった!!!』
私は先生の方にに向き直ると
「私ってドジで、昨日階段から落ちちゃって...
普段は自転車通学なんですけど、この足じゃこげないんで、バスで帰ろうと思ってたんですけど、さっき友人が一番近くのバス停ってこの時間は暗いし、変な人がいるって言ってて...私の家、そこまで遠くないし歩いて帰ろうかと...」
と上目遣いで先生の方を見ると、先生は困った顔をしていた。
『もう一押しかな』
「それじゃ、先生。親が心配するので...失礼します」
と言って、また足を引きずりながら歩きだした。
すると、少ししてから先生が
「待て!家はどこなんだ?」
『ガッチャ!』
心の中でついガッツポーズをしていた。
振り向きながら「えっ?』と言う表情をして見せた。
「送って行ってあげるから、家はどこなんだ?」
と先生が言う。
「いえ。大丈夫です。」
と遠慮して見せた。
「いいから」
と言って先生は私の方に近づき私の引きずっている脚側の腕を支えてくれながら、駐車場の方へと導いていってくれた。
先生は私の為にドアを開けてくれて、シートに座るのも手伝ってくれた。
その後、運転手席側に乗り込み
私が伝えた家の住所の方へと車を走りだした。
先生が運転している横顔を盗み見した。
『なんてキレイな横顔なんだろう』
この人を私のものにしたいという欲求が、抑えられなくなるのを感じた。
それからは、偶然を装い学校内でも積極的に先生に話しかけていった。
私からだとはわからないように、先生と私が一緒に車に乗ってどこかに出かけているのを見た子がいると言う噂も流した。
徐々に取り巻きの子達が先生と私がつきあっているのではないかと噂をし始めた。
噂が十分大きくなった頃、また先生を帰りに待ち伏せた。
そして、先生の前に出ると。
「先生。ごめんなさい。わたしのせいで先生と私が噂になってしまって..。迷惑ですよね」
と言って涙を流した。
先生は
「大丈夫だから、気にするな。あれは、俺が半ば強引にお前を家まで送ったんだから、お前は何も悪くないよ」
と慰めてくれた。
この先生、イイヒトなんだよね。
「こんな噂は出ちゃったけど、私、先生に話しかけてもいいですか?」
とお得意の上目遣いで聞いた。
先生は
「もちろん。悪い事は何もしてないんだから」
と笑顔で言ってくれた。