「綾子は本当にかわいいね」
私が小さい頃から、家族はいつもそう言っていた。
私には、両親の他に2人の兄がいる。
末っ子で女の子の私は、生まれる前から両親に一番可愛がられていた。
両親はずっと女の子を待望していたらしく、やっとできた女の子にデレデレだったのだ。
幼稚園に通っていた頃、車に轢かれそうになった兄を助けて、少し怪我をした事があった。
その事がきっかけで、兄は私を溺愛するようになった。
するともう一人の兄も競うように私の事を溺愛し始めた。
その内、どんな態度を取れば好かれるのか、どんな風に私の事を大切にしてくれるのかが、わかるようになっていった。
学校に行くようになると、友達にもこの方法は通用した。
友達からも先生からも気に入られて、人気者だった。
小学校の高学年になると、嘘をつく事を覚えた。
私が気に入らない子には、私とは気付かれないように陥れる事ができた。
そんな状態のまま中学に上がり、それまでと同じようにしていたが、中学3年の2学期に、学年で一番チヤホヤされていた女の子に近づき友達になったふりをして噂を流し、まわりから孤立させていった。
私よりも人気者はこの学校には必要ないからだ。
みんな簡単に信じて、今までの彼女の人気は全くなくなった。
もともと、人気が欲しかった子ではないようだったが、周りの変わりように、人間不信に陥っていたようだった。
人なんて、そんなものだ。
ちょっとした事で、変わる。
本物の友情なんて、存在しないのだ。
みんな自分がかわいいだけ、楽しい事が好きなだけ、誰かの痛みなんてわからないのだから。
中学の卒業式の日、彼女は私に
「綾子ちゃんが全部やったんでしょう?かわいそうな人だね」
と言った。
かわいそうなのは...
私じゃないでしょ?
その日以来、彼女とも中学が同じだった子達とも連絡を取らなくなった。
私にとって彼女らは、学校生活に必要な物だっただけで、卒業したら価値はない。
高校に入学して、すぐに友達ができた。
やっぱり私のやり方は、間違ってはいない。
ただ、人気者になりたい願望はもうなくなっていた。
女子校だった事もあってか、生徒の中で特別に人気のある子はいなかったが、
私のクラスの2個隣の担任の男の先生が、すごい人気になっていた。
かっこよくて、背が高くて、女子高校生には、身近にいる大人の男の人というだけでも、魅力的だった。
初めは、ただ観察しているだけだったが、日に日に気になり始めていった。
そしてある日、先生にわざとぶつかってみた。
「おい。大丈夫か?」
と心配そうに訊ねてきた先生に
「はい。すみません。少し気分が悪くて」
と言って、立ち上がれないフリをした。
先生は私を軽々と持ち上げ、保健室へと連れて行ってくれた。
まさか抱き上げられると思っていなかったので、嘘をついているのを忘れ、
一瞬、素になる所だった。
保健室に医務員がいなかったので、先生は、そのまま私をベッドにまで運ぶと、隣に座り、気遣ってくれた。
「よくある事なんで、大丈夫です。少し休めば平気になりますから」
と言うと、優しそうな笑顔で先生は、
「少しの間ひとりで大丈夫か?医務の先生に来てもらうように言っておくから」
と言ってくれた。
チャイムがなると、先生は次のクラスがあるからと保健室を出て行った。
ベッドで横になりながら、先生に抱き上げられてここまで来た時の事を思い出していた。
女の子達の羨望の眼差し。
快感だった。
まだ、胸がドキドキいっている。
このドキドキが先生に対してのものなのか、
快感による興奮からくるものなのかわからなかったが、
この時から、先生への執着が始まった。
ある種の中毒症状の様なものだった。
