その後も、松井先生は何かと体育委員の仕事の手伝いを頼んできた。
「絢って頼みやすいんだよな。俺まだ、この学校に赴任してきたばかりだし、でも、毎回ありがとな」
と言って、今日も放課後2人だけの教室で資料整理の手伝いをさせられていた。
「絢のクラスの担任は、本当生徒からモテモテだよな」
松井先生と先生のやりとりを聞いてしまったので、松井先生が先生の話題を出してきた事に少しドキッとしてしまった。
一瞬間があってから、
「確かにモテますよね」
と言うと、
「あれ?絢も先生のファンなの?」
と聞かれた。
「ファンでは...ないですね」
と言うと、なんだか気まずく感じて資料を見つめたが、松井先生の視線が気になった。
「じゃあ...何?」
「何?って...もちろん一生徒ですよ」
と、少しひきつってしまった笑顔を松井先生に向けたが、松井先生の表情は怖いぐらいに真剣だった。
どうしたらいいのかわからずに困っていると、少ししてニコッといつもの松井先生の表情に変わった。
「そっか。そうだよね。変な事言っちゃったかな?
それに、先生には彼女さんいるみたいだもんね」
と松井先生が言った。
私が「えっ!」と顔を上げ松井先生の顔を見ると、松井先生は続けて
「本当は、教師のプライベートの事を生徒に話したらいけないんだけど、絢は誰にも言わなそうだしな」
と少し躊躇しているような顔をし、その後
「俺のクラスの担任の星野先生と、よく一緒に帰り車に乗ってるし、この間、星野先生が着ていたジャケット。前に先生が着ていた物と同じだったんだよな」
隣のクラスの担任である星野先生の事をそんなに注意深く見た事がなかったので、全然気づかなかった。
「生徒達の中でも噂になってるみたいだけど、聞いたことない?」
と言われ
「ないです」
としか答えられなかった。
この時、思っていた以上にショックを受けている自分に驚いていた。
なんとなく、先生に対して恋愛感情に近いものを持っている自覚はあったのだが、
ここまでとは、思っていなかった。
家に帰り自分の部屋でいろいろ考えていた時、2年になって初日、先生が教室に入ってきて初めに言った言葉を思い出していた。
『俺は、生徒と恋愛はしないから覚えておけ』
確かに、言ってた。
自分にも少しは先生から好意が向けられてるのではないかと錯覚していたんだ。
私は先生の生徒だから、恋愛の対象になる事はないんだ..。
と思うと、涙が流れ落ちた。
その日から、勘違いをしないようにと心に決めた。
学校に行くと今までは気にも止めていなかった星野先生の事が気になるようになった。
廊下などでみかけると、先生との共通点を見つけ出そうと、いろいろと見てみたが、何も見つける事はできなかった。
でも、先生と楽しそうに話す星野先生を見ると心が落ち込んだ。
そうしている内に先生と星野先生の噂は私の耳にも届くようになっていた。
注意深く見ていると星野先生が、生徒達から絶大な人気がある事にも納得がいった。
外見の良さだけではなく、とても芯のある素敵な先生だ。
そんなある日、廊下で友達と話していると、星野先生が近づいて来た。
「お話している所、ごめんなさいね。あなたが絢さん?
先生が時々あなたの話をするから、どんな子なのか会いたかったの」
と言われた。
「はい..。絢は私です。」
「うん。思っていた通りの子だったわ。邪魔しちゃってごめんなさいね」
と言うと、星野先生は自分の教室へと入って行った。
なんだったのだろう?先生が星野先生に私の事を時々話す?
頭の中で、二人が先生の部屋で私の話をして笑っている光景が見えて、なんだか悔しい気持ちになった。