私とピン球

「……ていう、こと、です」

桃の様子を伺う。

顔が長い髪に隠され、表情が分からない。

「何、それ」

やっぱり、そうだよね。

引くよね……。

桜木先輩みたいに。

「早く言いなさいよ!」

は!?

瞳に涙を溜め、鼻を赤くした桃が叫んだ。

「いくらでも相談乗ってあげたのに!そんなことくらいで、友達やめるなんて、最初から友達じゃないわよ!」

「桃……」

「だから、ラケットも大事にしてたんでしょ?キュウスケくんを打ったやつだから」

小さく頷いた。

「ちょっとあたし、桜木先輩殴ってくる!!そんなサイテーな人だとは思わなかった!!!」

「も、桃〜、それはやめて〜」

「何で《私》が泣いてんのよ!」

「それはコッチのセリフよ!」

瞬間、バチ、と目があい、くすくす笑いあった。
 
キュウスケ。

あなたがもし、生まれ変われるのなら。

今度は、人間に生まれてきてね。

私、絶対見つけるから、待っててね。

「あれ?《私》、あれ転校生じゃない?」

「え、どれどれ?」

窓の外を覗くと、男の子が校門をくぐっていた。

舞い散る紅葉が邪魔でしょうがない。

ふわり、と突然風が吹き、紅葉が一斉に晴れた。

「……え」

思わず、声を漏らしてしまった。

一気に涙がこみ上げてくる。

「どうかした?」
  
桃が不思議そうに首を傾げる。

「あれ……キュウスケだ」

「は!?生まれ変わりってこと!?」

「うん、多分……」
  
雰囲気というか、オーラというか、感じたのだ。

「行ってきなよ!早く!」
  
ドン、と桃に背中を叩かれ、その勢いで走り出した。

下まで階段を駆け下り、キュウスケの生まれ変わりと対面する。

「あ、……えと」

桃!

来ても、話すことないわよ!

あなたはピン球のキュウスケの生まれ変わりです、なんて言える訳ないし。

ましてやあなたに恋してたなんて、いえる訳がない。 

私がまごまごしていると、その人は柔らかな笑みを浮かべたまま、唇を動かした。

全てが、キュウスケだった。

「ただいま、《私》」

ついに、溜めていた涙が零れた。