私とピン球

「おい、ランキング桜木が1位だってよ!」

体育館に帰るや否や、そんな声が飛び交っていた。

桜木先輩、1位なんだ!

すごい!
 
「桜木先輩!」

人混みから、桜木先輩を見つけ、叫んだ。
 
「《私》……」

振り向いた、桜木先輩の顔を見て、一瞬、別人かと思った。

1位のはずなのに、目が濁り、曇っているのだ。

「だ、大丈夫ですか?」  

「《私》、僕……ずっと、《私》が好きだった。」

……はっ!?

「付き合ってくれ」

え、これって、愛の告白……!?

突然の出来事に戸惑いが隠せない。

「本当は、体育館に残ってもらって言おうと思ったけど……我慢できなくて」

耳が、紅く染まっている。

私の耳にも熱が集中した。

「……」  

嬉しい。

素直に、嬉しい。

だけど、答えは、そんなの、決まってる。


「ごめんなさい。私、好きな人がいるんです」


申し訳なく思いながら頭を下げた。

「誰?」
 
顔を上げると、苦しみと嫉妬に歪んだ先輩の顔があった。

「それ、誰?」
  
そんな切なげな表情で見つめられたら……っ。

「キュウスケ、です」

「誰なの?どこのクラスの、人?」

やめて、その甘い声。

言えない。

言えないの。

言えないのに、言っちゃいけないのに……私のばか。

「キュウスケは……ピン球なんです」