「文字で書いた方がわかりやすいかもしれませんね」

 紙にペンを走らせながら呟く。
 
「これで分かりますか?」

 紙を掴み、明人は麗に渡した。秋もその紙を覗き見る。

『匣』『箱』

 と。読み方が同じ二文字が書かれていた。その二文字を見て、秋は疑問を口にする。

「漢字が違う。でも、どっちも同じ読み方ですよね」
「確かに読み方は同じですが、意味が少し違います。こちらの箱は物を入れるための容器と言う意味です。貴女方がお持ち頂いた物はこちらになります」

 テーブルの上にある箱を指差しながら明人はかみ砕いて説明する。その説明を耳にしながら、二人は持ってきた箱と紙を交互に見た。

「そして、もう一つ」

 困惑している二人に対し、明人は右人差し指を立て説明を続けた。

「こちらの匣の意味は、蓋がついてピッタリと被さっている状態を表します」

 笑顔で説明を終えた明人は、話は以上というように口を閉ざす。だが、違いがいまだ分かっていない二人は、首を捻り考え込んでしまっていた。

「こっ、この箱も蓋がしっかり被さっていますよ?」

 自身が持ってきた箱を手に持ち、麗は慌てて言った。だが、明人は眉を下げ首を横に振る。

「また違います。どのように言われましても、私はそのような箱を開ける事ができません。申し訳ありませんが、お帰り願えますか」

 頭を下げられ、麗と秋は大人しく帰るしかない。二人は箱を自分の持ってきたリュックへと入れ、そのまま小屋を出て行った。

 その時、明人が何か怪しむような瞳で秋をジィっと見ていた事など、本人は気付いてはいなかった。