「さて、早速本題に入りましょうか。貴方達は何か開けたい”(はこ)”があるのでしょうか?」

 二人が座った事を確認し、青年もソファーの向かいにある木製の椅子に腰を下ろした。落ち着いた事を確認すると、青年は微笑みながら口を開き質問する。
 その動作一つ一つが丁寧で美しく、二人は頬を染め見惚れてしまっていた。

「おっと、失礼しました。まずは自己紹介からですね。私の名前は筐鍵明人(きょうがいあきと)と言います」

 右手を自分の胸元に持っていき、通る声で自己紹介をする明人。

 彼は顔が良いだけでなく、振る舞い一つ一つが丁寧で気配りがしっかりとなっているため、女性なら惚れてしまってもおかしくない。

「はっ、はじめまして。私は夏美麗と言います。よろしくお願いします明人さん」

 麗は気を取り直し、フレンドリーに名前を名乗った。

「こちらは友達の神楽坂秋と言います」
「あ、えっと。はじめまして……」

 麗は自分の自己紹介が終わったあと、直ぐに秋の方へ手を添え代わりに紹介する。
 いきなり自己紹介をされ、秋は一言だけになってしまったが挨拶をし腰を折った。
 
「はい、はじめまして」

 微笑む明人に、秋は戸惑い麗は目を輝かせる。

「それでは夏美さん、神楽坂さん。貴方達はどのような匣を開けたいですか?」

 明人の言葉を聞き麗と秋は、ソファーに座る際に横に置いたリュックに手を伸ばし、中から鍵付きの小さい箱を取り出しテーブルに置いた。
 見た目はただの小物入れ。片手に乗るほどの大きさで、ハートの形をしている鍵が振動で揺れる。

 二人は事前に、鍵を無くしてしまったという設定にしようと話し合っていた.
 秋は嘘をつく事に後ろめたい気持ちがあり、明人と目を合わせる事ができず目線が泳いている。

『おどおどしすぎ。ばれるよ?』
『わかってるよ』

 明人に聞こえないよう、麗は肘で秋をつつき小声で注意する。二人を明人は目を細め見ており、口元に微かな笑みを浮かべた。その笑みは微笑んでいるようなものではなく、何かを企んでいるような妖しい笑み。細められた瞳はまるで、捕食対象を狙っている獣のように見える。だが、そんな彼の視線など気づかず二人は小さな声で話していた。

 テーブルに置かれた箱を明人は拾い上げ、まじまじと見る。その時には、先ほどの笑みは消えており、眉を下げ困ったような顔になっていた。

 ただ見ているだけで何もしようとしない明人に二人は疑問を抱き、麗が恐る恐る問いかけた。

「あの、開けられそうですか?」

 そんな彼女の質問に、明人は諦めたような顔で話し出した。

「……何か勘違いされているようですね。私はこのような実物の箱を開ける事はできません」
「「え?」」

 何を言っているんだと。二人は明人の言葉に驚き、呆けた声を出してしまう。

「ですが、どんなに固く閉じられた箱でも開ける事ができると……」
「”匣”違いかと思います」

 明人は微笑みを崩さず簡単に答えるが、二人はそ理解できず眉を顰める。
 その様子を見て、彼はテーブルの下から紙とペンを取り出し何かを書き始めた。