『まったく。なんで青夏はあんな、なんも取り柄のないあいつの事ばかり気にするのよ』
『確かに。江梨花の方が彼女にするなら全然いいのにね』
『そうでしょ? なんか頑張って青夏に近付いてたみたいだけど、少し本気を出してやれば直ぐに引いてくれたわ。いい気味ね』
『でも、江梨花は本気なの? 風間君の事は……』
『あんなの遊びよ。なんか”あいつ”が図に乗ってるのがムカついたから取ってあげたの。それに、青夏は私の隣にいた方が良いと思わない?』
『あいつって白井朱里だっけ?』
『そうそう。まぁ、簡単すぎて逆につまんなかったけどね』
『江梨花わっる〜い』

 三人の甲高い笑い声が廊下にも聞こえるくらい響いていた。

「ひっ、酷い……」

 あまりに最低な発言に我慢できなかった朱里は、美術室のドアを大きな音を立て乱暴に開けた。

「ん?」

 部室の中には、江梨花を中心として三人が椅子に座っており、ドアの音に反応した。

「今の、本当なんですか?」
「はぁ?」
「さっきの発言、本当なんですか?! 青夏先輩の事……」

 朱里は金切り声をあげ江梨花に向かって叫ぶ。だが、彼女は気にする様子を一切見せず、悪びれもなく立ち上がり朱里に近付いて行く。口元には笑みが浮かび、瞳は氷のように冷たい。見られるだけで体に鋭い何かが突き刺さるような感覚が走る。