屋上から教室へ。朱里は自身の机に座った。

「随分幸せそうね。顔が溶けてるわよ」
「あ、李津!」

 席に座り赤く染まった頬を抑えていた朱里に、苦笑いを浮かべながら話しかけていたのは幼馴染の李津(りつ)だった。

「それがね! 今日! 青夏先輩がすごくかっこよかったのぉー」
「もうそれ毎日聞いてるから聞き飽きたわよ」

 李津は朱里の席がある、前の椅子に座った。その後、彼女は椅子を朱里の方へ向けて、呆れ顔で話を聞く。やれやれと呆れているが、朱里の楽し気な表情を見て自然と笑みが零れる。

「えへへ。でも、本当にかっこいいんだもん」
「はいはい」
「ちゃんと聞いてよ」
「聞いてるじゃない。それに、風間先輩は貴方だけがそう思ってるわけじゃないよ。敵は多いんだから早く告白したら?」

 季津の何気ない言葉に、朱里は目を見開いた。考えた事がないわけではなかった。だが、それを口に出す事はなく、出された事もない。今いざ言われ、口をパクパクさせ、驚くしか出来なかった。

「こっ、くは……く?」

 思考が止まり、オウム返しのように同じ言葉を繰り返す。
 
「え、えっと……。今は、まだ……」

 顔を赤くしながら目を泳がし、俯く。

「……そっか。でも、あんた我慢しすぎんじゃないよ? 何かあったら言いなね。協力するからさ」

 李津は朱里の頭をなで力強く口にし、その言葉に彼女は笑顔で頷いた。

「うん! ありがとー!」
「ええ。まったく、世話がやけるんだから」
「えへへ」

 そこで、教室のドアが開き先生が入ってきた。
 李津は椅子を前に向かせ姿勢を正し、朱里も授業の道具を机に並べた。