パチン!! と。体育館が広がる空間に何かを弾く音が鳴り響く。すると、目の前に広がっていた光景が一瞬にして消え、何も見えなくなり真っ暗となった。

「え、ちょっ! なんなの!!」

 秋は隣にいるはずのカクリに手を伸ばすが、いつの間にか姿を消しておりなにも掴めない。
 焦りながら何もない空間に叫ぶが、周りは何も見えない闇の中。叫んだ所で返ってくるのは自分の響いた声だけ。

「こ、怖い……」

 突如一人になり、闇の空間へと投げ出された秋は恐怖で身を縮こませる。薄く涙が浮かび、自身の両肩を掴む。その時、闇の中に男性の声が響いた。

『安心しろ、問題ない。そのまま体の力を抜け』

 甘く澄んだ声。優しく包み込んでくれているような声に、秋は声主を探すが見当たらない。どこから聞こえるのか、誰が話しかけてくれているのか。何もわからないはずなのに、秋は体に入っていた力が自然と抜ける。

 浮かんでいる秋の背中に突如として、白い手が現れ彼女の背中に触れた。その手から徐々に男性の影が現れる。
 手が秋の背中に触れた瞬間、目から涙が溢れ出し宙に浮かんだ。

「……そうだ。私は麗がずっと羨ましかったんだ。羨ましくて仕方がなかった。それがいつしか憎しみへと変わってしまっていたんだ。その想いを口に出してしまえばもう後戻りが出来ないと。だから、蓋をしてしまった。気持ちを出さないように。麗がいなくなってしまったら、私が一人になってしまうからと……」

 秋は両手を自分の胸に持っていき、顔を下げ優しく微笑んだ。

「なんだ、私。自分の事ばっかり」

 目から溢れ出る涙は秋の悲しみや怒り、憎しみなどを洗い流しているように見える。

「麗。私これからちゃんと自分の想い、意志を自分の口で伝えるように努力するよ。だからこれからも一緒にいてくれるかな?」

 誰もいない空間に問いかける秋。その声は優しく、涙声だがすんなりと聞き取れた。

 もう、心につっかえは無い。言葉がすんなりと出てきており、すっきりした顔を浮かべる。

「麗。私の話、聞いてくれるかな」

 その言葉を口にした瞬間、周りの闇は崩れ落ち、真っ白な空間へと変わった。優しい声が、白い空間に響き渡る。

『お前の匣は開けた、もう問題ない。自分の信じる道を進め』