「なに。同情、してるの?」

 怒りと困惑。ぐちゃぐちゃな感情が秋の心を占め、どうすればいいのかわからず胸元を強く掴んだ。
 気持ちの悪い感情を押さえつけようとするが、溢れてくる感情はどうする事も出来ない。喉が詰まり、息が浅くなる。

「君にはあれが同情に見えるのかい?」

 息苦しく胸元を抑えている秋に対し、カクリは声色一つ変えず問いかける。冷静な声に秋も落ち着き始め、喉が広がり息をしっかりと吸う事が出来た。

 カクリはチラッと隣に立つ秋を見上げ、また前に目線を戻す。表情一つ変えず、ただただ問いかける。

「君は自分の想いを伝えたかい?」
「自分の、想い?」

 カクリの言葉を彼女は繰り返し、彼の横顔を見つめる。

「人間と言うものは、自分の口で意見を言わなければ通じないだろう。お主は相手に伝えるように、行動を起こしたのかね?」

 カクリの言葉に、秋はハッと目を開く。

「そうだ、私は今まで麗に伝えてなかった。自分の考え、意志。伝えても意味ないと思ってたから……」
「意味が無いって、誰が決めたんだい」

 カクリの抑揚のない質問に、秋は気持ちがすぅっと冷めていき余裕を取り戻した。

「今やるべき事はわかったかね」

 カクリの言葉に秋は大きく頷き、自身を見上げている彼と目を合わせた。

 彼の目は黒く、明人と同じような瞳。その瞳は真っ直ぐ、ただ前だけを見ていた。迷いなどは一切なく、カクリの奥に秘める強い決意が黒い瞳から見え隠れしている。目を離す事が出来ず、秋は見下ろし続けた。

「わかったようだね。今の君なら大丈夫だろう」
「えっ」

 カクリが安心したように呟くと、右手を頭の横に持って行った。人差し指と親指を重ねはじく。