「随分仲良くなったみたいですね」

 用事を済ませた明人が微笑みながら戻ってきた。その手には何か小さい物が握られ、秋の目線が彼の手へと向けられる。

「これが気になりますか?」

 明人は握られている右手を前に出し、問いかける。出された手には小瓶が握られており、中に小さな花が入っていた。

「はい……」
「これは貴方の匣を開けるための必須アイテムです」

 簡単に説明をしながら、秋の目の前にしゃがむ。下から見上げられ、秋は明人の整った顔に頬を染める。
 明人は空いている方の手を秋の頭に乗せた。驚き、染める程度だった頬が真っ赤になる。すると、突然彼女はグラッと体を横へと傾かせた。

「な……、なに……。きゅう……、に……」

 いきなり襲ってきた睡魔に抗おうとするが意味はなく、重くなる瞼に負け目を閉じる。ソファーに寝転がり、寝息を立て始めた。

「さてと、ちゃっちゃと匣を開けるか」

 明人は秋がしっかりと眠りについたか確認するため、頬をぺちぺちと叩いている。
 それに対し、秋はなんの反応も無いためしっかり寝たとわかった。

 秋が眠りについた事がわかると、優しい微笑みを浮かべていた明人はすぐに口角を下げ口調が戻る。手に握られていた小瓶は、もう使わないためテーブルに置いた。
 小瓶の中に入っている水色の液体が揺れ、浮かんでいる小さな黄色の花が踊るように左右へと揺れた。

「こいつの匣の中にあるのは嫉妬心。自分より優れている奴らを羨む心。これをそのまま開けるとこいつは闇へと堕ちるな。ま、いつも通り最初は、落ち着かせる事にすっか」

 今の状況を確認し、明人は流れるような動作で右目を隠していた前髪をそっと上へと上げる。
 隠されていた瞳が露わになり、闇に浮かぶように五芒星が赤く輝いていた。

「さて、こいつに記憶を見せるとするか。後は任せたぞカクリ」
「分かった」

 明人はカクリを見ずに告げると、秋の頭に手を置きそのまま眠りについた。
 五芒星が刻んである右目だけを開けたまま。