「なるほど。そうでしたか」
「はい。それでいつの間にかここに来てしまって……。箱は持ってないんです。前回のも、鍵はあるので開けられる物だったんです。すいません」

 涙を拭き、落ち着きを取り戻す。
 何とか最後まで話しきる事ができ、最後に前回のお詫びも口にした。頭をテーブルすれすれまで下げ、何度も謝罪する。すると、明人は彼女の肩に手を置き、顔を上げさせた。

「謝らないでください。貴女方のように勘違いをしてしまう方もいるのです。気にしないでください」

 秋は、その言葉で力が入り上がっていた肩を下げた。

「安心してください。貴方は今”匣”をしっかりと持ってきています」
「え?」

 箱を持ってきていると言う彼だが、秋は荷物を学校に置いてきてしまっているため手ぶら。何か勘違いをしようにも手には何も持っていない上に、ポケットも箱が入るほどの大きさでは無い。
 秋はよく分からないというような表情で、彼を見た。

「訳が分からない。という顔をしていますね」
「えっ、はい……。あの、私はこのように手ぶらです。箱などは──」
「安心してください。貴方はちゃんと開けられない匣を持っています」

「ここに」と言いながら、明人は自分の胸を指しながら伝える。

「私が開ける匣は貴方の心にある、閉ざされてしまった想いなのです」
「閉ざされてしまった想い?」
「はい。貴方は自分の意見、考えを言えずにずっと我慢してきました。それ故、今はその想いに蓋をしてしまっているのです。それはもう、自分では開ける事が出来なくなっています」

 秋は静かに彼の言葉へ耳を傾けていたが、理解できず眉を顰める。

「心の蓋は自分で開ける事が出来ません。なので、私がそのお手伝いをします」
「お手伝い、と言いますと?」
「詳しくは言えません。ですが、確実に貴方の心の匣を開ける事が出来ます。ですが、やはり私もボランティアなどで行っている訳ではありません。お代は頂きます」
「あの。私今──」
「安心してください。今の貴方もお持ちの物です」

 今の秋は部活からそのまま出てきてしまったため、財布などがある訳がない。自分のポケットを何度も確認し、再度明人に目線を戻した。

 それを確認した後、彼は妖しい笑みを浮かべ口を開く。

「貴方の記憶をいただきます」