「あんたのせいよ! あんたがこんな所にボールを置いたから!」
「────えっ」

 体育館に響き渡った声は、その場にいた人達全員の耳に届くほど甲高かった。そのため、周りの視線は全て秋へと注がれる。その目は皆鋭く、批判的だった。
 そんな目を向けられた彼女は、顔を青くし体を震わせ後ずさってしまう。

「ち、違う。私は──」

 絞り出した声はとてもか細く、誰の耳にも届かない。

「神楽坂さんが……」
「あれでしょ、いつも片付けさせられてたから……」
「じゃ、これは復讐的な……」
「なんでそれをわざわざ試合前にだよ……」
「ふざけてんのかよ」

 周りの声はどれも批判的な言葉ばかり。誰にも秋の言葉は届いていない。それぞれ、怒り、憎しみ、困惑といった表情を浮かべている。

「ち、違う! 私はそんな事してない!」

 次はみんなに届くように、先程より大きな声で否定したが、それを信じる者はこの場にはいなかった。

「ちょっと! 巴はキャプテンなのよ! 貴方の復讐で欠けていい存在じゃないのよ!」
「そうだそうだ! どう責任取るつもりよ!」
「これで試合に負けたらどうするつもりなの!」

 みんなの声に、秋は逃げるように耳を塞ぐ。それでも完全に声を遮断できる訳ではない。目には涙が浮かび、必死に耐える事しか出来ない。

「ち、ちがう。私、ちがう」

 どんなに否定しても、秋の言葉は周りの人の声でかき消され届かず消えてしまう。
 それでも秋は体を震わせ「違う」と呟き続けた。だが、周りからの批判。身に覚えのない事を周りから言われ、壊れかけていた秋の心は限界を迎えた。

「わ、私じゃない!」

 周りからの視線や罵倒に耐えられず、秋は叫び体育館から外へと走り、周りからの批判的な目から逃げた。

「秋!!」

 麗は秋の後ろを付いて行こうとするも、何かに気づきその場に立ち止まる。

 ステージ付近でボールの入った籠が倒れており、ボールが散らばっていた。
 巴が転んだのはステージ付近。秋は出入口に一番近い所に先程まで立っていた。もし、彼女が籠を倒したのであれば出入口付近に居るのはおかしい。

 麗は秋の出て行った方を一目見て、その後部員達の方を確認した。
 部員達は未だ、秋への不平不満をこぼしている。

 麗はその様子を見て、開きかけた口を閉じてしまった。

「ごめん秋。私は、一人になりたくない」