次の日、麗と秋は教室でいつも通りに一つの机を挟んで話していた。

「一体何がダメだったのよ!!」

 麗は不貞腐れた顔で喚き散らしながら机をバンバンと叩く。その様子を秋はめんどくさそうに見ながら、片手に持っていたパックジュースを一口飲んだ。

 今二人は、昨日の小屋について話していた。噂は本当だったが、小屋に居た男性。筐鍵明人の言葉が理解できず麗はずっとイライラしていた。
 秋はその様子を見て、昨日の出来事を思い出す。

「筐鍵明人さんだったっけ……」
「そう! 見た目はすごくかっこいいけど性格に難アリね! もっと詳しく教えてくれないと分からないじゃない」

 麗は今だに怒りを喚き散らしており、秋は苦笑いを浮かべ、お前が言うなと目で訴えていた。

「どうしたの秋。私をじっと見て……」
「……いや、なんでもない」

 秋の心情に全く気づいていない麗は、首を傾げながら問いかける。だが、秋の返答はそっけないもので、麗も彼女の言葉に「そう」の一言で終わらせてしまう。
 その後、麗は微妙な空気を誤魔化すようにいきなり立ち上がり、声を張り上げた。

「あぁぁぁああ! 考えてたら腹たってきた。もう部活行くよ!」
「え!? う、うん」

 秋は麗の突然の行動に置いていかれないよう、すぐパックジュースを飲み干し鞄に手を伸ばす。
 そんな秋の手首を掴み、体育館へと引っ張って行こうとする。手に持っていた空のパックジュースを教室の角にあるごみ箱に投げ、引きずられるように麗についていく。
 投げられたパックジュースは、カコンと音を鳴らしゴミ箱の中に入った。

 廊下に出ても腕を引っ張り続けられている秋は、麗の背中を見て目を伏せる。影が差し、下唇を噛んだ。

「自分勝手」

 黒く、憎しみの籠った秋の呟きは、誰の耳にも届かなかった。