彼がこれほどまで取り乱した電話をかけてきたことなんて1度もなかった。


それに伝えられた内容に私はグッと受話器を握り締めていた。


「どういうことだ?」


『下校途中に車にひかれたらしい。緊急搬送された東郷病院から連絡が入った!』


知り合いの言葉が頭の中を駆け巡る。


私は右手で受話器を持ったまま、左手でカバンを掴んでいた。


机の上には採点途中のテスト用紙が置かれたままだが、気にしている余裕はなかった。


「東郷病院だな」


『あぁ』


私はろくに礼も言わず、乱暴に電話を切った。


子機だったので、そのまま机の上に置いて席を離れた。


「香西先生?」


電話を取り付いてくれた先生が声をかけてきたので私は一瞬視線を送り「娘が事故に遭いました」とだけ言って、職員室を出たのだった。