1年後ーー

「岡本さん、電話です」

2年目になったばかりの戸塚さんの声。

今年で、採用係5年目。
さすがにそろそろ最後だ。
業務を戸塚さんに引き継いでる。

「誰から?」
「シンガポールの坂口さんです」

久しぶりに社内で聞く名前。

私は受話器を取る。

「もしもし」
「もしもし」

仕事の電話は意外と初めてかもしれない。

「さっきメール送ったんだけど」

私はそう言いながらメール画面を開く。

「先輩社員から新入社員へのメッセージ」。

「あれ、なんで俺なんですか」

そう言う声はちょっと面倒くさそう。

結構こういう依頼は気を使う。

「ほら、1年目で海外で頑張ってるなんてかっこいいでしょ」

とりあえず思いついた言葉を発した。

黙り込む電話の向こう。

海外だから調子悪い?

「もしもし?」

たまに聞こえてくるバックの英語。

「あの」

やっと坂口くんの声がした。

「また、恋に落ちます」

は?

「私、今何か言ったっけ?」

髪を触る。
伸びてきた。
そろそろ髪切ろうかな。

「かっこいいとか言われたら、恋に落ちます」

バカ単純な発言。

「じゃあ、原稿お願いしまーす」

私が切ろうとした時、向こうから「あの」と呼び止められる。