夜、最後のセックスをした。

暗くなった部屋。
二組敷かれた布団の一組。

触れ合う肌と肌。
絡ませる足と足。
後ろから回される腕。
優しく弄られる髪。

坂口くんから、坂口くんの匂いがする。
好きな匂い。

たぶん、きっと忘れない。

匂いも、坂口くんの温もりも、腕の強さも。

「あのさ」

坂口くんが切り出す。

「たった三年だし、シンガポールだし」

何を言おうとしてるんだろう。

「大丈夫だよ」

そう坂口くんは言った。

「大丈夫って?何が?」
「きっと、またこういう日がくるよ」

無責任だ。
 
坂口くんが指に指を絡ませてくる。

「なんでもない夜に、会いたくなるじゃん」

そう自分で言いだして、少し胸がチクッと痛む。

「うん」
「今までみたいにフラッと隣の部屋に行ったり来たりできなくなるじゃん」

そんなことを言う私が幼稚なのは分かってる。
どうにもならないことも分かってる。
坂口くんが後ろからギュウッと抱きしめてくれる。

「もし寂しくなったら、岡本さんどうすんの」
「・・・」
「他の男の人のとこいくの」
「行くかもしれない」

ずっと背中向けていた体を、坂口くんが強い力で振り向かせた。
向き合う顔。