誰もいない海辺。

指先だけで繋がれた手。

一歩先を歩く坂口くん。

すごく静かな夕方。

波が静かに寄せては返す。

岩に坂口くんが座る。
私もその隣に腰を落とす。

「いいですね」

まっすぐに海を見つめる目。

「坂口くんさ」

私はここんところずっと考えていたことを言う。

「日本離れたら、私のこと忘れていいよ」

坂口が軽く衝撃を受けたような表情で私を見る。

「それぞれ頑張ろう」

低い波が、足元の岩で崩れる。

「だから付き合うとか、なし」

私は笑って坂口くんを見る。

坂口くんはどこか宙に目を落としながら、静かに頷いた。

「俺、ちゃんとかっこよくなって帰ってきます」

そう言って私を見る。

「うん、楽しみにしてるよ」

静かに、夕方の時間が過ぎて行く。

坂口の人生も、私の人生も、それぞれ縛り合うことは違うと思った。

きれいな夕方の海が、私たちの気持ちも全部きれいに洗ってくれる気がした。

いろんな迷いや、涙や、負の感情を洗ってくれるような、そんな海。