エピソード7が終わると、隣でゴロゴロくつろぎはじめる坂口くん。
お互い、続けて8を観るテンションじゃない。

だけど、このまま別れたくない。

「隣の部屋なのに、帰るのが面倒くさいってことあるんですね」

突然そんなことをぼやく。

「え?」

同じことを考えてて驚いた。

「なんでもないです、帰りまーす」

急に明るいトーンでそう言うと、サクッと上体を起こして立ち上がる。

「忘れ物ない?」

革靴を履く坂口くんに聞く。

「ないでーす」

そう言って坂口くんはドアを開く。
いつも見送る坂口くんの背中。

私はあと何回、こうやって背中を見送るんだろう。

「坂口くん」

私はなぜか無意識に彼を呼び止めていた。
坂口くんが「ん?」という表情で振り向く。

一度開かれたドアが静かにガチャリと閉まる。

坂口くんのまっすぐな目。
私は一歩、歩み寄って顔を近づける。

そして坂口くんの口にキスをした。

ほんの数秒。

余韻を残すようにして顔が離れる。

坂口くんが少し驚いた顔をしている。
至近距離で見下ろされる。

「今俺のことどう見てるんですか」

珍しく笑ってない。

「男として見てる」

そう言うと、今度は坂口くんが私の腕を強く引いた。

私たちはまたキスをした。
0時半の玄関。

その日、初めて、坂口くんは隣の部屋に帰らなかった。