それぞれの部屋の前に着く。
今日のデートが終わる。

坂口くんの目を見る。
坂口くんも私を見返す。

「着いたね」

私が言う。

「うん」

坂口くんが私の気持ちに応えるように言う。

「手・・・」

私が言うと、少し坂口くんが動揺した。

「あ、ごめん」

そう言って手を離す。
静かに放された手が、宙に落ちる。

「おやすみ」
「おやすみなさい」

そう言っても、坂口くんは全然部屋に入ろうとしない。
「入らないの?部屋」
「いや、入ります」

そう言う坂口くんの声が鈍い。

「じゃあ、私、入るよ」

坂口くんは小さく頷いたものの、立ち止まったまま。

「なに?」
「いや、何でもないです」

ドアノブにやっと手をかけた。

「じゃ、ありがと」
「はい、また」

私は坂口くんより先に部屋に入った。

バタンとドアが閉まる。
暗い部屋。

ドアにもたれかかって、さっきまで繋がれていた左手を見つめる。

キスし逃したな。

どうしよう。
もっとずっと、一緒にいたいと思ってしまった。

こんな夜に限って、「ドラマ観ない?」と誘えない不器用な私がいた。