ゴミ出しに行く前に何か反応しなさいよ、そう思った時。

ピンポーン。

部屋に響くインターホン。

「俺です」

電話越しの声。

「俺なんで開けてください」

なんで今、坂口くんが来るの。
泣いてるのがバレる。

躊躇いながら小さくドアを開けると、坂口くんがスマホを耳に当てたまま、そこに立っていた。
坂口くんが私の顔を見る。

「泣いてるじゃないですか」

そう言って笑う。

「だって」

私が言おうとした時、坂口くんは一歩部屋に入ってきて、強く優しく、長い腕で私を包み込んだ。

そして大きな掌で私の頭をグッと胸に押し当ててくれる。

力強い坂口くんの腕の中。

「だって、佳弥に振られた」

そう小さく言った途端、涙を堪えすぎてジンジン痛かった鼻が限界になって、そしたらもう涙を止めることができなくなってしまった。

ボロボロボロボロ涙が溢れ出す。

「他に大切な人がいるって」

私は坂口くんの胸にしがみつくように言う。

「イスラエルはその人といるって」

そう言って大人げなく涙を流す私の頭を、坂口くんは「うんうん」と言ってひたすら撫で続けてくれた。

電話の後も全然涙が出なかったのに、驚くほど涙が出てくる。
坂口くんの温かさが体に染み渡って、涙が止まらなかった。

「ドラマ観ますか」

坂口くんの声に、私はボロボロ涙を流したままゆっくり見上げる。

「俺の部屋で」

坂口くんがそう微笑んだ。


私たちはその日、深夜1時まで坂口くんの部屋でドラマを見続けた。

気付けば、涙がすっかり引っ込んでいた。