部屋で一人テレビを眺める。
テレビの内容は右から左へと通過していく。

佳弥との思い出にふけるわけでもなく、何か落ち込むわけでもなく、何か劇的に変わるわけでもなく。

でもテレビを楽しめない自分がいるのは確かだった。

突然スマホが振動する。
誰だろうと画面を覗くと「坂口諒」。

「はい」

私は地面を這いつくばっているミミズのようなテンションを何とか人並みに戻して電話に出た。

「岡本さーん」

能天気な坂口くん。

「スプレー缶って何ゴミですか」
「最後まで使い切って缶ゴミ」

仕事なら「自分で調べなさい」と言うところだけど、今は内容のくだらなさに思わず笑ってしまう。

「それとー」と続ける坂口くん。

「ゴミって夜の間にゴミ捨て場置いてきてもいいんですか」
「燃えるゴミは当日の朝ってなってるよ」

坂口くんの声、実家のコタツみたい。
異常なほどの安心感。

「岡本さん?」
「なに?」
「今泣いてます?」

まさか、と思って頬を触ると、濡れていることに初めて気付く。

自分でも気づかなかったことを、言い当てられるなんて。
しかも6つも下の坂口くんに。

なんで分かったの。

「泣いてないよ」

嘘をつく。

沈黙。

ただガタゴトと電話の向こうから音がする。

ゴミの分別に夢中か。

私は半ば呆れながら「もしもし?」と呼びかける。

無言。
バタンとドアが閉まる音だけが聞こえた。