「化粧品の会社にいたのも
 本当はオシャレに興味があったのかなって…
 ほんの少しでも
 変わりたい自分がいるように思えたからさ。
 だからモデルの仕事に誘ったんだけどね」

『思い違いだったらごめんね』と
謝りながら食事を続ける彼を思わず見つめてしまった。



まわりからそんな風に言ってもらったのは
初めて。

自分ですら初心の気持ちなんて忘れていたのに。

「確かに…入社したばかりの時は
 そんな気持ちを持っていた…な」

彼を見つめたまま
思っていた心の声が
”独り言”の言葉として漏れてしまった。

それを聞き取った彼は
食事の手を止め、ちゃんと私の話に耳を傾けている。

「昔から注目されたり目立ったり
 流行に乗ってオシャレして化粧して恋をして
 そういうのがずっと苦手で。
 だからいつも陰に隠れていた。
 まわりでキラキラ輝いてる人達を静かに見てるだけ。
 感情を表に出す事もなかったな」

「うん」

「子供の頃は
 ”根暗”っていうのが原因でイジメにもあって…」

私はどうして
こんな話をしているんだろう。