その日の夜。
仕事を終えた私は、彼と話をする事を決め
どう切り出すか考えながらマンションのエレベーターに乗り込んだ。
思い出すのは出会った時の事。
それが全ての始まりで
短い期間だったけどたくさんの夢を見させてもらって
この歳になってドキドキさせてもらった。
そしてその夢も、これで全て終わり。
「…よし。」
エレベーターの到着が
別れの合図。
「え…」
部屋に近付くと
腕を組んで壁に寄り掛かっている然さんの姿が―――
「どう…して…」
思わず声に出してしまうと
彼は腕組を解き壁から背を離して真剣な表情で私に言葉を掛けた。
「由凪さんに話がある」
話があるのは私の方。
こんなの想定外で
また何を言われるんだろうって事ばかり。
本人を目の前に
緊張して言わなきゃいけない事が言えなくなりそうで怖い。
「新多から聞いた。
俺の会社の事、ずっと気に掛けてくれていたんだね。
ありがとう。
まだそのお礼を言ってなかったから…」
そう言って頭を下げる然さん。