何て声を掛けたらいいんだろう。
黙っていた方がいいかな。

今の私は
ただ付き添って送っているだけだから…

「着きましたけど…
 歩けます?」

自分達の部屋の階に到着したエレベーター。
庫内の壁に寄り掛かり目を閉じていた然さんは
ゆっくりと目を開けるも、さっきより虚ろに見える。

「うん…平気…
 ありがとう」

ぼんやりした返事と表情に
気力だけで動いているんだなってわかる。

ようやく辿り着いた然さんの部屋の前。
本来ならそれほど遠い距離じゃないのに
こんな状態のせいか長く感じたのは
たぶん気のせいじゃない。

「じゃぁ…私は会社に戻りますね」

無事に送り届ける任務を完了した私は
それ以上多くの会話はせず立ち去ろうとした。

だけど―――

「この前は、ごめん」

「え…」

背中越しに聞こえた彼の謝罪の言葉に
ハッと振り返ってしまった。

けれどそれとほぼ同時に…

「…ッ」

然さんは頭を押さえたまま
グラっと体がまた傾いていく。

「然さんッ!」

私は慌てて彼に近寄り
倒れないように、すかさず両手でガード。