「悪い、新多。
 次の仕事が残ってるから。」

聞く耳を持たず然さんはゆっくりと席を立ち
私達を避けるように事務所から出て行ってしまった。

「然のヤツ
 マジでどうなっても知んねーぞ」

強引に彼を止めようとしない所を見ると
『言っても無駄』
そう判断したのかもしれない。

「由凪さんも
 今のアイツに何言っても聞かないから近付かない方がいい。
 しばらく自宅待機してもいいんじゃん?」

「う…うん…。
 だけど…」

今の彼を見放す事は出来ない。
彼にはたくさん助けてもらったんだし。
それに…

「今はいろんな事を抱えて苦しんでいるだけだから
 失速して立ち止まった時に傍にいてあげたいなって。
 ほら、桐生さん言ってたじゃん?
 私は弱音を吐ける”居場所”になればいいって」

「由凪さん…
 どうしてそこまで然を?」

「どうして、かな…」

改めてそう聞かれると
今まで深く考えてこなかったから
どうしてなんだろうって自分でも思う。

でも1つだけハッキリしてる。

「然さんが会社を大切にしているように
 私も彼を大切に思うから」

きっと、それだけ―――