「確かに状況は良くない…かもしれない。
 大変なのはわかるけど
 このままだと然さんが倒れてしまう。
 だから―――」

「由凪さんには関係ない事だよ」

「え…」

「これは俺の問題なんだ。
 ここに連れてきのたは俺だし働いてもらっている事には感謝しているけれど、踏み込んでわかったような事は言わないで欲しい。
 悪いけど…放っておいてくれないかな」

私の言葉は彼には届かず目も合わせてくれない。
それどころか迷惑だと拒絶されてしまった。

今まで一緒にいた中で
1番、然さんが然さんじゃないように思える。

普段の彼は穏やかな表情で私に触れて
”好き”だと言って優しくキスをしてくれた…のに。

全部、壊れる音がした―――


「然、由凪さんに八つ当たりするなよな」

事務所の入り口で
眉間に皺を寄せてドアに寄り掛かっている桐生さん。

振り向いて彼と目を合わせたけれど
私が酷く落ち込んでいるように見えたんだろう。

「大丈夫?」

ドアから背中を離し私の正面に移動したかと思うと、軽く頭を撫でられた。