もちろんキスしている段階で今更遅いのだけど。
蕩けるような雰囲気に呑み込まれている場合じゃない。

「ス、ストップ!」

再び迫りくる彼の口元を覆うようにして
手のひらを当ててガードし強制制止。

彼も目を大きくしながら停止した。

「落ち着いて、然さん」

ゆっくりと手を退けつつ語りかけるように伝えると
本人も鎮まったようで…

「ごめん…やりすぎた。
 何やってんだ、俺は…」

一歩、後退しながら後悔もしている。


今日の彼等はオオカミなのか
神話に出てくるように豹変してしまったのか
そして今宵は、満月だったのだろうか。


そんなおとぎ話のような話でも
本能のまま見えない力に突き動かされてしまった私達は
案外ホンモノの”獣”だったのかもしれない。


頭の片隅でそんな夢物語を考えながら
『明日はきっと元に戻る』と自分に言い聞かせ
私と然さん、そして桐生さんはそれぞれ家路に着き
眠れない夜を過ごしていった――――





      【スペック高めな狼達。終】