「由凪さんには…」
呟いた然さんの声に、返事をするように顔を上げると
隣にいた彼は私の前に移動し
庫内の壁を背にトンッと手をついた。
「然…さん?」
瞬きもせずまっすぐ私の目を見つめる彼の瞳は
真剣そのもの。
さっきは桐生さん、今度は然さん。
2人の瞳は逸らせられないくらい魅惑すぎて
今晩だけで2度も彼等に引きずり吸い込まれそうになる。
ドキドキするのは同じだけど
この人にだけは、もっと違う感覚に襲われる。
「誰にも触れて欲しくない…」
彼の親指が私の唇をなぞるから
搔き乱される心と高鳴る心臓
そして膨らむ、期待。
「…はい」
拒否反応なんて無くて
すんなりと受け入れてしまう、口付け。
キスをする然さんは
いじわるだ…―――
甘美な時間がとても長く感じていたけれど
エレベーターが到着する音に
私は現実に返ってハッとした。
「然さん…ッ
誰か来ちゃ…」
「平気だから…」
離れようともがく私の事なんてお構いなしに
彼は”閉”ボタンを押してシャットアウト。
このまま続行させようとする。



