然さんの事、何も知らなかった。
情けなくもあり悲しい事でもあり
”遠い存在”だと痛感させられたんだ。
「然を変えてくれたのは
由凪さんのおかげかな?」
ニコッと笑顔を向けてくれる彼に
私は素直に応じる事が出来ずに俯いてしまった。
「感謝しているのは私の方です。
然さんが私を変えてくれた。
だから今この会社で、彼の元で
新しいスタートを切る事が出来たんです」
助けてもらってばかりで
まだ私は何1つ返せていないけど。
「変えてくれたって事は何か訳あり?」
「ま、まぁそんなところですかね」
「なるほどね。
それならアイツがナンパしたのもわかるな。
俺の次に見る目はある男だから」
「”俺の次”って、なんですかそれ。
でも…そうだと嬉しいな」
桐生さんから伝わる然さんへの友情愛に
思わずフッと笑ってしまった。
すると突然
なぜか彼はその場に立ち止まり
驚いた表情で私を見ている。
「桐生さん?
どうしま―――」
言い終わる前に彼に腕を掴まれ
ブロック塀を背に追い詰められてしまった。



