夜中に関わらず、相手は忙しいようですぐに電話を切った。
 剣杜は、カバンから台本を取り出して映画の準備をすることにした。初めての映画出演。多少は緊張しているものの、ほとんどがモデルの仕事の様子をしている様子を撮影するだけなので演技というほどでもない。それに演技は失敗してもやり直せる。
 けれど、作戦は失敗出来ないのだ。

 そして、次に予定されている顔合わせのメンバーのメールをプリントした紙も合わせて確認をする。
 そこには監督や主演俳優や女優、各部署のリーダーなどの名前が記載されていた。その中に、ある1つの名前を剣杜は強い視線で見つめる。



 原作作者 澁澤悠陽



 その人物こそ、虹雫の物語を盗んだ本人なのだ。彼女のために、この仕事を引き受けたのだから、やらなければいけない。
 けれど、大きな事件に発展しそうな事に、剣杜は気がかりだった。
 電話口の相手は、親身になってくれるがこれは幼馴染み3人の問題なのだ。それなのに、巻き込んでしまっているな、と感じていた。
 それに、虹雫や宮には秘密があるが、この事によって、2人にバレてしまうだろう。
 自分はどう思われてもいいが、電話口の相手は大丈夫だろうか。そんな風に思ってしまう。


 「まぁ、あいつの事だから、「それがどうした?」とさらりと言ってしまうんだろうけどな」


 剣杜は苦い顔を浮かべて独り言を残した。
 協力してもらい、秘密をバラのだから成功させなければいけない。それに、宮が今まで必死に繋いでいたものを、ここで切られるわけにもいかない。

 剣杜はこれからのシミュレーションをしっかりとするべく、目を瞑った。
 宮から聞いたあの事に関しては考えないようにしながら。