「宮、おまたせー」
 「………虹雫」


 階段から降りてきた虹雫は、いつもと変わらない笑顔を浮かべて宮に向かって手を挙げながら名前を呼んだ。先ほどの雰囲気とは違いすぎて、宮は戸惑ってしまう。無理やり元気を装っているのかと思ったが、虹雫はそんな様子も見せずに「剣杜、待っててくれるかなー」と玄関でシューズを履きながら、声を弾ませて話す。彼女は白いワンピースにジージャンというカジュアルな格好に着替えていた。そんな彼女は普段通りすぎて、宮はそれに合わせるしかなかった。


 「剣杜、お待たせ!」
 「………大丈夫なのか?」


 とある公園で待ち合わせをしていたが、先に学校が終わった剣杜が待っていた。
 笑顔で駆け寄る虹雫を、剣杜も驚いている様子だった。さりげなく、宮の方に視線を合わせてくる剣杜だったが、宮は小さく首を横に振るしか出来なかった。


 「うん。元気だよ?」
 「そ、そうなのか?」
 「ごめんね、急に呼び出して」
 「いや、おまえの所に行く予定だったけどいいけど……」
 「虹雫、それで行きたい事っていうのは?」
 「うん。ここで、したいことがあるんだ。ここだと目立つから奥の方に行こう」


 そういうと、虹雫はすたすたの公園の奥の方へと一人で歩き始めた。
 その後ろ姿を怪訝そうな視線を送りながら、剣杜は宮に近づいてきた。