「そのうちに、本の話になって。表紙は有名なイラストレーターさんを使いたいとか、広告は大々的に行うとか。夢みたいな事を話してくれて。私、舞い上がっていたと思う。………そのうちに、何だか突然寒気がして、体が重くなってきて。気づいたら眠気に襲われて。男の人が大丈夫ですか?って心配してくれたのは覚えているんだけど。………その後は、記憶が曖昧なの。体を支えてもらいながら歩いていたのは覚えているんだけど」
 「じゃあ、さっきの場所に行ったのは………」
 「あまり覚えてないけど、ロビーに座っていたような気がする。そして、気づいたときにはホテルのベットにいて。腕が縛られていたの………」

 虹雫は、自分の手首をさすりながら、そう言った。剣杜はそれを聞いて、彼女の手首に手を伸ばした。虹雫は1度は隠そうとしたが、すぐにそれを諦めて自分から制服のブラウスを捲った。うっすらだが、彼女の手首には縄で強く縛られたような赤い痕が残されていた。それを見て、剣杜の顔が歪んだ。


 「それから、制服を脱がされていって、………その……下着や裸の姿を写真や動画に撮られて、脅された………。私が書いた物語を今すぐに消せ、って。もし、作品を削除しなかったり、警察に伝えたらネットの掲示板やSNSに、今撮った写真をばらまくって………」
 「それは、もしかして」
 「私の小説を自分に譲れって………」
 「………盗作か」
 「その小説が本になっても、誰にも言うな。その事が俺の耳に入った時点で、写真をばらまくって。その男の人は喫茶店の時とは別人みたいに怖くて。声も視線は冷たくて、態度も乱暴だったから怖くて仕方がなくて。その場から逃げる事しか考えられなくて、頷いた………」
 「………」
 「そしたら、その後に無理やり口の中に薬を入れられて、水で流し込まれて。…………その後は、すぐに眠ってしまって。気づいたら、縄も外された状態でベットに寝かされてて…………」