16話「盗られた夢」




 ホテルで虹雫が笑顔を見せた理由を、宮は今でもわからなかった。
 安心したからなのか、安心させたかったからなのか。
 どちらでもなく、どちらでもある。そんな複雑な感情が絡んで出来た表情だったのかもしれない。
 いずれにせよ、宮には決して忘れられない、今でも思い出すと苦しさを感じてしまう、虹雫の笑顔だった。

 それから宮達3人は、すぐにホテルを出た。
 虹雫は放心状態のままだったので、宮と剣杜が身なりを整えてやり、体を支えながらなんとかホテルを後にした。タクシーに乗っている間も、虹雫の体は震えていた。そのため、宮と剣杜は片手ずつ手を握り、彼女を少しでも安心させようとした。
 夜の街を走る車内はとても静かで、運転手も必要最低限の会話以外は何も口にしなかったのだった。


 剣杜は親に宮の家に泊まると嘘をつき、逆に宮も剣杜の家に行くと伝え、3人は虹雫の自宅へと戻った。虹雫は祖母が亡くなってから親戚が時々顔を見せに来るぐらいで、ほぼ1人暮らしをしていた。そのため、無表情のまま、時折涙を流しているフラフラの虹雫を1人にしておくことは出来ないので宮と剣杜は、彼女の家に泊まる事にしたのだ。


 「虹雫、大丈夫?」
 「………うん。………ごめん」
 「もう落ち着いたのか?」
 「2人が一緒に居てくれたから」