が、帰ってきた虹雫の表情は、想像もしないものに変わっていた。
 予定より遅く帰ってきた虹雫。宮と剣杜は、きっとお祝いの食事でもご馳走になってかえってくるのだろう。と、勝手に思ってしまっていた。そのため、虹雫から電話がかかってきたとに、宮は「虹雫、作家デビューおめでとう」とお祝いの言葉をいち早くに伝えてしまった。その日は両親が仕事で外出していた宮の家に剣杜も訪れていたので、虹雫が帰ってきたらお祝いをしようと、お菓子屋やジュース、虹雫が欲しがっていた本を準備してちょっとしたパーティーをしようと、彼女の帰りを待っていたのだ。
 だが、電話口から聞こえてきたのは、いつもの彼女からは想像できないようなものだった。


 『………ッ………、宮、剣杜、どうしよう………』
 「え………虹雫、どうした?」
 『うぅ…………ッッ』
 「虹雫、何かあったのか?」
 「おい、宮。どうしたんだ?」


 宮が焦り、ただ事ではない雰囲気を感じた剣杜も不安そうに宮の方を見つめている。
 宮は「虹雫が、泣いてる」と小さな声で剣杜に言うと「なんでだよ。何があったのか?」っと、声を張り上げた。


 「虹雫、落ち着いて。俺も剣杜もいるから」
 『………宮、剣杜、………助けて』
 「…………ッッ」


 嗚咽交じりの悲痛な彼女の声。
 理由はわからなくても、虹雫が苦しんでいるのがわかり、宮は声が出ないほどに感情が高ぶった。何があった。どうして、彼女が泣いている?自分が居ない時に、虹雫に何かあったのだ。

 焦る気持ちを押し殺して、宮はゆっくりと冷静に、虹雫に声を掛け続けた。
 そして、どうにか虹雫が今いる場所を特定し、宮と剣杜は急ぎ向かった。

 彼女が泣きながら電話をしてきたのは、静かな場所だった。何も聞こえない。風も人の声もしない場所。
 宮と剣杜が到着したのは繁華街にあるホテルの一室だった。駅からも近いホテルで、ビジネスホテルよりはおしゃれで、高級ホテルまではいかなくても、知名度の高い場所だった。夜も遅いが、ロビーはスーツを着たサラリーマンや旅行客が多数いた。2人はそれらに紛れながら、まっすぐにエレベーターに向かった。宮と剣杜の間に会話はない。どちらも緊張した面持ちのまま静かに上へと上がっていくエレベーターの階数表示をジッと見つめていた。虹雫が教えた部屋の場所に近づくにつれて、宮の鼓動は早くなっていく。