15話「続く憎悪」




 虹雫は小学生の頃に読書感想文、そして中学生では小論文のコンテストで入賞するようになり、自分でも言葉で気持ちを表すことが好きだと感じるようになってきていた。小さな頃から読書家でもあった虹雫が、自分でも物語を書いてみたいと思うのは自然な事だった。

 ネットも普及し、小説の投稿サイトも増えてきた頃だったため、虹雫は高校生になる頃に、その投稿サイトに物語を更新するようになっていた。
 幼い頃に両親を亡くし、その後一緒に過ごしていた祖母も中学卒業後に亡くなってしまった。家族がいなくなってしまった事に絶望し、泣き崩れて過ごしていた虹雫にとって、物語の執筆だけが生きる希望となっていた。

 夢中になって物語を作っていくうちに、虹雫の作品に感想などが届くようになり、ファンも増えていった。そこから勇気や自信が湧いてきたのだろう。虹雫には笑顔が増え、宮や剣杜に「こんな感想したの!」「どんな物語だと喜んでもらえるかな」と、毎日物語の執筆の話で持ちきりだった。彼女が笑顔になっていき宮も剣杜も安心していた。そして、きっと虹雫は一人でも生きていける、と思っていた。虹雫は、自分の物語を2人には見せる事はなかった。「デビューして本になるまでは絶対に教えない!」という、虹雫の決まりがあったので、宮も剣杜も無理に聞いたり、探したりもしなかった。けれど、きっと彼女なら夢を叶えるだろうと思っていたので、虹雫の本を読める日も近いと確信していた。


 そのため、虹雫が涙を浮かべながら「本になるかもしれない!!」と報告してきた時には、思ったより早かったな、と思ったぐらいだった。投稿サイトに載せた物語をとある作家が気に入り、出版社に紹介してくれるというのだ。虹雫は「信じられない。でも、嬉しい……有名な出版社だし、返事していいよね」と聞いてきたので、宮も剣杜も「頑張れ」と応援した。
 そして、話はトントンとすすみ、作家と出版社とで話をする機会が設けられる事になったのだ。虹雫の親族はいないので、彼女一人で受けることになった。虹雫は高校卒業間際だったため、契約可能となったとの事だ。

 緊張した面持ちで虹雫は制服のまま、待ち合わせ場所へと向かった。けれど、期待が大きいのか微かに笑みもあった。そんな虹雫を、2人で見送った。