椛は、剣杜の芸名だ。彼は名字が好きなようで、活動するときはこの名前にするとすぐに決めていた。会社側もそれには反対する様子もなく、満場一致だったそうだ。
 一条は、頭の中で椛が映画に出ている姿を想像しているのか、少し考え込むようなしぐさを見せた。が、すぐに口を開く。


 「あの原作で、モデルの男の人が出ていたし、あの役ならほとんどセリフもないし。モミジくん、いいかもしれない。雅樹くん、いい案をありがとう」
 「お役に立ててよかった。友人の驚いた表情が目に浮かびます。喜ぶだろうなー」
 

 今までで1番の笑みを浮かべて、一条の目を見つめる。と、彼女も得意気の笑みの中にも艶のある女の色気のある目でこちらを見つめていた。そして、宮の手の上に自分の手を重ねてきたのだ。


 「今日はお互いにお酒のペースが早いわね」
 「そうですね。嬉しいことがあると進んでしまいます」
 「えぇ……。ねぇ、雅樹くん。この下のホテルを予約しているの。飲み過ぎるとわかっていたから。雅樹くんも一緒に休まない?」
 「………女性の誘いは断れないですね。しかも、こんな美人の誘いは……」



 ………宮がそんな風に返事をした瞬間だった。
 ピピピッピピピッと静かなバーに電子音が鳴り響いた。宮のスマホからだ。