12話「向き合う勇気」





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 「あれ?今日は彼氏さん迎えに来ないの?」
 「最近、忙しいみたいで。それに、彼氏じゃないですよ……」
 「またまたー。今日こそ、近くで見たかったのに。絶対にイケメンだよね」
 「確かにモテてましたね。私の幼馴染なんですけども」
 「じゃあ、今度迎えに来た時に挨拶させてね」


 虹雫の職場の先輩である女性と、図書館の鍵を閉めながらそんな話をしていた。どうやら、宮が迎えに来ているのを誰かに見られてしまったようだ。お試しの恋人では「彼氏です」とも言えずに、虹雫は曖昧に誤魔化すしか出来なかった。
 先輩と別れた後に、すっかり暗くなった夜道を1人で歩く。お試しの恋人になってからは、一人で帰る事が少なくなり、そんな日は寂しくなってしまう。今まではずっと1人だったというのに。それに最近は宮が忙しいようで週に1度ぐらいしか会えなくなってしまった。今までが会いすぎていたのかもしれないが、虹雫は今日はいるだろうか、と仕事を終えて図書館の扉を開けては落胆する日々が続いていた。


 「一人だし、街の大きい本屋さんにでも寄っていこうかな。まだ閉店まで時間があるしね」


 そうと決まれば、虹雫の足取りも軽くなる。本好きにとって本屋はテーマパークなのだ。頭の中でどんな本を買おうかと考えていくうちに、虹雫は少し前の出来事を思い出した。剣杜と一緒に本屋を訪れた時だ。その時の事を思い出すと、バックを持つ手に力が入り、鼓動も早くなる。虹雫は大きく深呼吸をして、一人で感情を落ち着けていく。