ブブブッ、と枕元に置いてあった携帯が振動する。
 宮はアラーム音の代わりにバイブにしているのだ。いつもアラームの前に起きるので、ほとんどこの振動音は聞くことがない。今日は、それぐらいにベットから出たくなかったという事だ。


 「虹雫、おはよう。そろそろ起きる時間だ」
 「ん。あ、宮」


 眠気眼のままボーっと宮を見つめた虹雫は、すぐにハッとして目を大きく開いた。
 きっと自分が宮の部屋に泊まった事をようやく思い出したのだろう。少し恥ずかしそうにしながら手で髪を整えながら「おはよう」と、布団の中で小さく挨拶をする。
 ただ一緒に寝ただけの特別な朝でもないはずだ。それなのに、彼女はとても幸せそうに微笑む。虹雫のその笑顔を見ただけで、「あぁ、泊めてよかったな」と、穏やかな気持ちになるから不思議だ。
 そして、その笑顔を守りたい。偽りじゃなく、心からの笑みをこれからも見続けたい。そう改めて思うのだ。


 「昨日の残りのサラダとピザがあるけど。ピザは朝からキツイかな?」
 「ううん。ピザトーストだと思えばいいんじゃない。私は嬉しいよ。あと、コーヒーを淹れよう?」
 「そうだな。よし、じゃあ起きよう」
 「あ、待って……」


 起きようと腕に力を入れた宮の体に、虹雫は小さく抱きついてきた。


 「ん?どうしたの、虹雫」
 「起きちゃったら恥ずかしくてきっと言えなくなると思うから。今、言ってもいいかな?」
 「うん、いいけど。何かな?」
 「何もしなくていいから。…………また、今日みたいに泊ってもいい?」
 

 断られるのが怖いのだろう。
 それでも言葉にしてきたという事は、どうしても伝えたい事のはずだ。
 その願いというのが、自分の家で一緒に寝たい。そんな言葉を好きな相手に言わせてしまうなんて、お試しであっても恋人失格だな、と思いながらも嬉しくなって口元がニヤついてしまいそうになる。
 それをどうにか堪えて、宮はお返しとばかりに彼女の体を抱きしめ返した。