そう言って、書店の紙のカバーがかかった単行本を剣杜に差し出した。宮がずっと持ち歩いてきたあの本だ。遠目からでも、それが新品ではないのがわかる。何度も目を通してきたのでカバーは薄汚れており、ページも少し黄ばんでいる。
 それをジッと見つめた剣杜はそれに手を伸ばしかけたが、途中で止めた。


 「いい。自分で買う」
 「……わかった」


 きっと、宮が大切にしてきたものだとわかったのだろう。剣杜はそういう事に気づく男だ。

 それから、虹雫が起きるまでは少しの時間だった。その間、2人は昔の話をしようとして止め、束の間の楽しい一時のために準備をし、もう一人の幼馴染みの目覚めを待ったのだった。