虹雫は映画化決定となり話題になった作品に、かなり動揺していた。

 となると、きっと#例の本__・__#なのだろう。
 そうなると、彼女のあの真っ青な顔の理由はわかる。よりにもよって、たまたま目についた本を虹雫との話題に出しただけなのに。運が悪い。

 「悪かったな、虹雫……」

 すっかり入眠してしまった、虹雫の頭をゆっくりと撫でる。
 どうしようもない気持ちが溢れ出て、剣杜は顔を歪ませた。思い出すのは、過去の3人だけの秘密。

 あの秘密は何のためにあったのだろうか。
 ……きっと虹雫の気持ちを落ち着かせるためだ。あの約束がなければきっと心を壊してしまっていただろう。

 だから、なかったことにした。


 「………おまえはまだ忘れててくれていいから」


 その言葉を残して、リビングの照明をゆっくりと落とした。
 宮が来ても、しばらくは起こさないことになるだろう。その間だけでも、虹雫がゆっくりと休めるように、と剣杜は願うことしか今は出来なかった。