お試しの恋人という関係になってから、週に2.3回らは彼が虹雫の職場に迎えに来てくれるようになっていた。その後は、どこかに食事に連れていってくれたり、虹雫か料理をつくったりと様々だったが、今日はいつもと違っていた。


 「あれ?なんか……いい匂いがする」
 「あぁ、気づいた?今日はテイクアウトをしてきたよ。お好み焼きとか、たこ焼きとか。飲み物もあるし、デザートはバームクーヘンにしてみたよ」
 「お家で食べるってこと?」
 「違うよ。まぁ、ついてからのお楽しみで」

 
 楽しそうに微笑む宮はとても楽しそうで、子どもの頃の彼に戻ったようだった。
 何か宮に考えがあるのだろう。


 「宮の事だから、きっと楽しいことね」
 「剣杜と違うからね。いきなり、肝試しに連れていったりはしないよ」
 「あ、それ、懐かしいなー。あの時は本当に怖くて2人から離れられなかったよね」
 「あの時の虹雫の悲鳴は面白かった」
 「……忘れてください」


 小さい頃に、剣杜に呼び出された虹雫と宮は、「楽しいことあるから、来て!」と行き先もやることも告げられずに、日が落ちた夏の夜に、懐中電灯1つを持って歩いた。そして、墓地についた瞬間に「肝試しをやる!泣いたり、怖くて逃げた人が負けなー」と、言い出したのだ。虹雫は「怖いからやめよう」と言ったが「懐中電灯は俺しかもってないから、暗い道を帰る事になるんだぞ」と言われ、宮と虹雫は肝試しに参加せざるおえなかった。宮と剣杜に手を握ってもらい、震えながら歩いたのを虹雫は今でも覚えていた。途中で、懐中電灯の電気が切れてしまい真っ暗になった瞬間、虹雫は泣き、剣杜は半泣きになりがら戸惑い懐中電灯を振り続けていた。冷静だったのは宮だけ。宮は暗闇に目が慣れてくるのを待ち、「2人共いくよ。墓地を出れば街灯もあるから大丈夫」と、2人を引っ張るかたちで、スタスタと歩いていた。その後、夜に家を抜け出したのがバレてそれぞれの家で家族に怒られたのだった。