「じゃあ、行こうか。今度、部屋で料理作る時にエプロン買おう。俺も一緒に作るから、2つ買おうか」
 「うんっ!」


 宮は言いにくいような事も、ちゃんと伝えてくれる。そして、フォローもしてくれる。おさ馴染みの時からそうだったけれど、そんな所が今の瞬間に更に好きになった。
 お揃いのエプロンを買ってもいいのかな、という妄想をしながら、急いで残りの料理に取りかかったのだった。







 その日は少し早めに宮と夕食を食べ、その後は部屋まで送ってくれた。

 そして、小さな部屋のフローリングにペタンと座り込み、しばらく呆然とする。


 「……本当に付き合ってるんだ。宮と私が……」


 ここ数日で生活が一変した。
 ずっと不安だったし、宮と会えない日は「恋人といるのだろうか?」と、ソワソワしてしまっていた。
 けれど、手を繋いで歩き、雰囲気の良いおしゃれなレストランで向き合って座り、2人きりで食事をして、宮にエスコートしてもらったり、帰り際にはキスをされたり。
 そんな夢に見た事が現実になっている。

 先ほど、車の中でキスをした時に、「キスなんて今までしたことなかったのに……信じられない」と、思わず本音が出てしまった。すると、宮は「慣れてきたら宮からしてね」なんて、言われてしまい、すぐに「……いつになるかわからないよ」と返事をしてしまった。
 けれど、まだ数回しかしていないキスなのに、すでに早く宮と会って、キスしたいと思ってしまっている。
 虹雫は、そっと指で自分の唇に触れる。指とは違う彼の唇の感触。もうそれに、虜になってしまっているのだ。


 「………自分からしちゃうようになりそうだな……。貪欲すぎるのかな……」


 そう独り言を洩らしつつも、虹雫はスマホを取り出して、彼へメッセージを送ろうとした。
 が、すでに宮からメッセージが届いていた。


 『料理ありがとう。あんな事言ったけど、虹雫の気持ちは嬉しいし、料理は楽しみだよ。明日から沢山食べさせてもらうね』


 宮からのメッセージはいつも虹雫の心を温かくしてくれるが、恋人になってからは、熱くなるほどだった。
 それが嬉しい熱さで、虹雫はメッセージを見つめながら「幸せすぎだよー」と一人悶絶しながら、しばらくの間返事の言葉に迷ったのだった。