後部座席に並んで座っていた2人だったが、剣杜がサングラスを外して、ジッと虹雫の顔を覗き込んだ。彼に言葉に、虹雫はドキッとして思わず視線を逸らしてしまう。が、それで全て彼にはわかってしまうのだ。


 「おまえな、白々しい嘘つくなよ。大丈夫なのか?店、キャンセルして誰かの家にした方がいいか?」
 「だ、大丈夫!ちょっと疲れているだけだから。宮が折角予約してくれたんだし、今日はお祝いだから、ね?」
 「俺は気にしないし、宮だってそんなの悪く思わないだろ」
 「いいの。私が行ってみたいだけだし。大丈夫だから。剣杜は心配しすぎだよ」
 

 必死に彼に伝えると、剣杜はまだ心配しているようだったが、渋々「辛くなったら言えよ」と、了承してくれる。
 彼も虹雫の気持ちをよく理解してくれている一人だ。ここで、自分のせいで飲み会がキャンセルになってしまうと、考え込んでしまうとわかっているからだ。幼馴染には感謝しかない。


 予定より15分遅れて到着した店は、街の裏路地にある小さなイタリアンのお店だった。1つ1つが個室になっており、靴を抜いでゆったり出来る隠れ家的なお店だった。照明も薄暗く、テーブルにはキャンドルが置いてあったり、クッションが並べられていたりと、おしゃれな部屋に通された。
 そこには、スーツ姿の男性が座っていた。艶のある黒髪の男は、剣杜とは違った落ち着いた雰囲気の男性だった。モデルをやっている剣杜と並んでも劣る事はなほどに容姿が整っており、剣杜と並んでいると「こちらの方もモデルさんですか?」と聞かれるほどだった。剣杜よりも長身ですらりとしているので、黒の細見のスーツがとてもよく似合う。