「十分可愛いよ。むしろ、そういう格好で出歩いて欲しくないぐらい」
 「キスはだめ……もうリップ塗った……」
 「塗り直せばいい」
 「もう……」


 怒り口調で反論したものの、それが本心ではないのに宮は気づいているのか、宮のピンク色の唇にキスを落とす。1度では終わらずに2度3度と続いていくうちに、それはどんどん深くなり虹雫は少しずつ呼吸が荒くなり、体が甘い痺れにより力が入らなくなる。虹雫の体を支え、宮が唇を離した時には虹雫の瞳は潤み、頬は紅色に高揚していた。力のない声で「宮のバカ……」と呟くが、その言葉を聞いても宮は心底嬉しそうに微笑んだ。


 「今日は出かけるのをやめよう。せっかく2人で休みなんだから……」
 「ダメだよ!今日はせっかく映画の完成上映会なんだよ?関係者だけの貸し切りだよ?いち早く見れるんだから、絶対に行きたいの」


 甘い誘惑に惑わされそうになるが、今日は宮の誘いには乗る事は出来ない。
 
 この日は、『夏は冬に会いたくなる』の映画完成を祝い、出演者やスタッフ、出版社などの関係者だけでの先行上映があるのだ。原作者である虹雫はもちろん招待され、盗作された作品を救ったという事で宮もぜひ来てほしいと、一条から誘われたそうだ。虹雫は、少しモヤモヤしたが宮にも早く自分の作品が映像になるのを見て欲しかったので、一緒に参加する事を喜んだ。
 宮は「んー、残念」と言いながら体を離したけれど、彼だって映画の完成を喜んでいるのは虹雫ももちろんわかっていた。その作品のために、盗作されてからも足跡を追い、澁澤を調べて取り戻そうとしてくれたのだから。