37話「幸せの連鎖」



 虹雫が巻き込まれた盗作事件は、あっという間にメディアによって拡大され注目された。
 元々人気作でもあり、映画公開も決まっていた事からかなり話題になっており連日報道されていた。澁澤が盗作した作品となると映画の公開は見送られると思われたが、出版社が「映画の内容は何もかわらない。作品も原作者も何の罪も犯していない」というコメントと、ファンからの映画公開の続行を求める熱い声が多かった事で、映画撮影は中止にならずに続行された。
 剣杜については、「実は幼馴染みが原作者」という事は告げずに撮影に参加し続ける事になった。この事件で有名になるのは嫌だそうだ。彼らしい考えだった。

 虹雫もメディアから追いかけ回される事になったが、顔出しやインタビューもほとんど断り公式からのコメントのみ出すだけに留めると少しずつ騒がれる事もなくなっていった。


 少しずつ少しずつ、日常に戻っていった頃、無事に映画の公開が決まった。
 その頃には、事件の報道はほとんどなく、虹雫は穏やかな日々を過ごしていた。虹雫は司書の仕事をやめて、夢だった作家としての生活をスタートさせた。今は『夏は冬に会いたくなる』の続編が決まり、それも無事に執筆が終わり発売を待つだけになっていた。


 「虹雫、そろそろ行くぞ」
 「うん!ねぇ、宮……この格好でおかしくないかな?」


 虹雫は新しく買ったばかりのワンピースを着て、いつもより髪型もメイクも丁寧に仕上げて、出掛ける準備をしていた。薄手のサマーニットワンピースはタイトで体のラインが出るつくりになっていたが裾はひろがっており、綺麗さな中にも可愛らしさを感じるものだった。髪もハーフアップにして、パールのついたヘアアクセをつけてみた。艶のある髪が綺麗に編み込まれており、いつもより華やかだ。
 宮はスーツ姿でいつもとかわらないが、宮にとっては大好きな服装なだけにドキドキしてしまう。今日会うどんな俳優よりもかっこいいな、と思ってしまうほどだった。