35話「表と裏の愛情」




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 「宮、遅いな……」


 暗くなった図書館の入口で、虹雫は何度目になる独り言とため息を吐いた。
 朝、宮に迎えに来て欲しいと頼み、彼は快く承諾してくれた。
 自分の本当の恋人になった宮。それが信じられなくも、気恥ずかしい気持ちにさせて、仕事中もソワソワした。それに、昨晩の澁澤の脅しも気が気ではなかった。今日、図書館を訪れる事はないと宮は言っていたが、それでもどこかで自分の動きを監視しているのではないか、と思ってしまうのだ。

 だからこそ、夜道に1人でいるのは怖かった。
 そして、宮が約束通りに姿を現さないのも心配だった。


 宮と剣杜が2人で何かしているのは、虹雫も気づいていた。
 きっとサプライズでどこかに連れて行ってくれたり、プレゼントをくれたりの準備だろう。そんな風に思っていた。けれど、どうやらそれとは違うようだった。
 その事も気になってしまう。
 お試しの恋人というのも、今にしてみれば宮がしようとしない事だな、と思ってしまう。宮の近くに居れるなら、と舞い上がっていたが、よくよく考えてみたら、宮らしくないのだ。
 そうなると、どうして?彼も一緒に居たかった?
 それに盗作問題を諦めたくなかった、と宮は話してくれた。ずっと虹雫の約束に付き合って忘れたふりをしてくれていただけだったのだろう。

 諦めたくないということは、宮は澁澤から作品を取り戻そうとしている?
 澁澤から作品を取り戻すには、どんな事をしなけらばいけない。澁澤と虹雫が会った事があり、そして脅されていた事を証明し、出版社に掛け合う事だ。そして、澁澤本人にもそれを聞き出す必要があるのではないか。
 出版社の人間で宮は、副社長である一条と会っているのを虹雫も見かけていた。
 それに、俳優としてドラマや映画に出演することを拒んでいた剣杜が、澁澤が盗った作品にだけ出演を断らずに出る事にしたのは、澁澤に近づくためではないか。

 2人は本当に澁澤から『夏は冬に会いたくなる』を取り戻すつもりなのではないか。

 そんな結論に至った瞬間、ドクンッと大きく鼓動が跳ねた。
 

 「………今、宮が迎えに来てくれないのにも、理由がある。もしかして、何かあった………?」