そして、進路指導などを受ければ大人達からは決まって「あなたなら、何でも出来る。選びたい放題だよ」や「選べるものがありすぎて迷っているのだ」と言われる。
 頭が良ければ何でも出来る。確かに選択肢は増えるかもしれない。
 けれど、自分自身にやる気がなければ、何をしても同じではないか。
 同級生でもやりたい事が明確になっている人を見ると、羨ましさと焦りが芽生えてきて、宮は学校に行くのが億劫になった。


 そして、極めつけが希望進路調査のプリントだった。
 どこの高校に行きたいですか?、将来の夢は何ですか?、その字を見るだけで宮は憂鬱になっていた。提出期限が過ぎても、宮はそのプリントが白紙のままで教師に渡せるはずがなかった。



 「宮、どうしたの?ボーっとして」
 「え、……あぁ。何でもないよ。今日は本屋に行くんだっけ?」
 「うん!大好きな作家さんの新刊が発売してるの!お年玉をずっと残しておいたのはこのためなんだから!」


 学校帰り。宮は買い物があるという虹雫と一緒に近くの本屋へ向かっていた。
 相変わらず彼女は本の虫のようで、読んだ本の感想が口から止まらずに出てくる。彼女が勧めてくれた本を何度も読んだことがあるが「面白い」とは思っても、自分から読みたいと思う事はなかった。けれど、虹雫はとても楽しそうに話しをしてくれる。そんな彼女の姿を見ていると、宮は嬉しくなる。自分も夢中になれるものが出来たら、こんな風になれるのか、と想像するととてもワクワクする。けれど、いまだかつてその思いは感じられない。